2010年2枚目となるASKAのニュー・アルバムは、これまで彼が綴ってきた膨大なラブソングの中から12曲をセレクトしたセルフカバー『君の知らない君の歌』。各楽曲の制作された時代はバラバラだが、どれもがこのアルバムのために書かれたような印象を受ける。つまり、君と僕の物語が12曲の楽曲を通じてドラマティックに、そしてロマンティックに展開していく、連作恋愛小説集とも言うべきアルバムなのである。
──ソングライターズヒストリーの“vol.2”として、『君の知らない君の歌』がリリースとなるんですが、今年の2月にリリースされた『12』が“Vol.1”ということになるんですよね。
「“vol.1”、“vol.2”と言っているのは、間違えないため、紹介しやすいためにそうなっているんだけど、自分の中ではまったく別個のもの。大きく分かれている。決して連作という意味ではない」
──ソングライターとしての30年のキャリアの中から楽曲が選ばれたセルフカバー・アルバム、という点では共通していますよね。
「そうだね。でも、一度作った作品を焼き直すことにはあまり興味がなくて…スタッフからプレゼンされたんですよ。なので『12』を作ったってことは、心を動かされたものがあったからなんだけど」
──今回の『君の知らない君の歌』は、ASKAさんからのアイデアだと聞いていますが。
「何年も前から、いつかこういうコンセプトのアルバムができたら良いなと、思ってはいたんだよね」
──だいぶ前から考えられていたことなのに、なぜいままで作ろうとしなかったのか。きっかけがあったわけですよね?
「『12』を制作することで、気持ち良さを知ったんですよ。CHAGE and ASKAの楽曲のセルフカバーであれば、もともとは二人でやったことで、だから一人でやることに対する懸念があった。でも、“そんなことを考えていてはダメだよ”っていう線を自分の中に引いたところから、思いっきりアルバムの制作にのめり込むことができたんです。音楽活動は喜んでくれる人がいないと、次の作品を生むことはできない。『12』ができあがったとき、その手応えを自分で感じることができたから、今回もそのノリでアルバムを作りたいって思ったんだよね」
──『君の知らない君の歌』には一つのストーリーが描かれていて、それは一冊の小説、一本の映画のようになっているんですけど、それは音にも表れていると思うんです。曲と曲の繋がり、曲のイントロや終わり方、ストリングスやホーンの起用にもこだわりを感じます。
「歌詞が入っていることは大きな要素なんだって感じましたね。すでにできあがっている楽曲なので、歌詞が入っていると音に対しての気遣いが生まれる。通常の自分のレコーディング方法だと、歌詞はあとからっていう意識があるから」
──どうして歌詞があとになっちゃうのでしょう(笑)。
「それはそれは大変でしょ!? よくみんな書けると思いますよ(笑)」
──とても繊細で、ロマンティックな歌詞。かなり神経を使うとは思いますが…。
「いやいやいや…。歌詞を書く作業が一番楽しくなるのは、80パーセント完成してからだね。そのあとの詰めはほんとうに楽しいけど、最初の一行までの距離が長い(笑)」
──では、できあがった曲を何回も聴いて言葉を…。
「何度も何度も何度も聴きながら。しっくりくる言葉でなかったら、歌っていてもつまらないし、つまらない歌はその場の空気が楽しくならない。伝染。スタッフはプロなのでレコーディング中、そういう空気になると気づくし、それで作業が止まってしまうし、推し進めても後悔する。だからそういう場合は、違う言葉にしていくんですよ」
──そうして生まれたこれまでのラブソングの中から12曲が選ばれ、『君の知らない君の歌』が構成されているわけですね。
「誰しも“恋愛ってこんなに楽しいんだ”と思う時期ってあるでしょ。そういうときの出来事はいまだに自分の作品に影響している。どうしてもそこを摘んでしまう。それはね、気が込められているからだと思う。そのときの感情を失っていないから、自然と自分の意識が言葉に、歌になって、だから気も残る」
──人って、経験したことは残るんですよね。
「ちょっと違う話になっちゃうけど、脳細胞って1日に2万個とか4万個死ぬって言うでしょ。お酒飲んだ日は20万個、30万個も死ぬらしいんだよね。だけどそれって死ぬだけかと思ったら、新しい細胞に情報を転移し終わってから死ぬんだよ。転移し損ねたことは記憶からなくなっちゃう。“思い出さないわけがない”って言葉を言い換えると、潜在か潜在じゃないか、意識があってのことか意識外のことか、ってことで、情報はなにもかも詰まっているってことだと思うんだよね」
──だから、のちの自分の人生に影響していくわけですね。
「自分だけじゃない。幸せなことや楽しいことが多い人の細胞はその部分が活性化されていくわけだから、それが次世代に伝わっていくのかもしれないし」
──ASKAさんはそういったことを言葉とメロディにできるところがすごくステキですよね。ロマンティックですし。恋愛って他人に言ったらその楽しさが半減してしまう感じがするんです。でも、誰かにわかってほしいというときに音楽があると思うんですよ。音楽が友達になって、それと自分の思い出が重なることってありますし。
「うんうん」

──十代のときに聴いていたCHAGE and ASKAをあらためて聴いてみたら、“こんなラブソングだったんだ!”って気づくこともあります。
「ありがたいことに、そういう言葉をいろんなところでいただきました。セルフカバー・アルバムを作ったことは、楽曲に触れ直す機会を得たということで、そのことに対するありがたさは感じますね」
──『君の知らない君の歌』には別れてからの楽曲が多いですね。その選曲は、男性視点ならではと感じたりもしたのですが。
「男性と女性はどっちが過去の恋愛を引きずるか。女性は、いちいちそこにこだわっていたら次に進めない、だからばっさりと今を切る、みたいな印象があるけど、自分は昔のことを毎日思い出すんだよ(笑)。好きだった人のことやその人との楽しかった時間を、一日のうちのどっかで必ず思い出してるね。思い出さない日はないと、いま言い切れる」
──みんなそうですよね。
「じつはみんなそうで、ただ、なかなか言えないでしょ、そういうことって。そういうことを正直に、表立って言う人っていないだろうなって考えたら、そこで辿り着いたのが、“ありがとう”という気持ちだった。もちろん男性側からの“ありがとう”ね。最後はそれで締めることがメッセージになっている」
──アルバムの最後、「C-46」からは“ありがとう”っていう気持ちが伝わってきますよね。
「男性と女性は回路が違うだけで思考量は一緒。10個あったとしたら全部一緒で、配列が違うだけの話。最後に“ありがとう”って言わなきゃならないところが男にはあると思うんですよ。そこへ辿り着けたところに、このアルバムを作った意味があったかなと思いますね」
──とくに初恋となれば、初めて心もからだもものすごくいっぱい使って人を好きになったわけですから、それは女性も忘れないですよ。
「同じでしょ?」
──出会いがあって、仲良しになって、別れがあってというプロセスの中で、一番楽しいときと一番つらいときって、ASKAさんの場合はどういうものなんですか?
「知り合ったときが一番盛り上がるでしょ。つらいのは…また好きな人やキレイな人が現れたとき…」
──(笑)。
「嘘嘘(笑)。つらいのは、一つの恋愛が終わるかもしれない、ってときだね。それは、焦燥とまではいかないけど、ぽっかり穴が空いてしまう感覚って言えばいいのかな、あれがまたくるのかと思うと、そのことを浮かべた瞬間はつらいよね。ただ、ほんとうの終わりはわからない。“さよなら”したあとも、ほんとに“さよなら”になったのかなって、1ヶ月経ってもそう思うことがあったりするからね。新しい関係が持てるようなムードができない限りは、終わらないんじゃないのかな…付き合っていた人、もしくは自分に、新しい恋人ができたときが初めての区切りになる、みたいな」
──相手が結婚しても、それで終わったとは言えないですからね。
「世間的にはそう言っておかないといけないからね(笑)。ただ、気持ちはあるわけだから。一度好きになった人を大嫌いにはならないでしょ」

──そうですね。恋をしたことで心を動かされた人とは、なにかが繋がっているんだと思います。
「うん。それはみんな一緒だと思う。男性も女性も同じだと思う」
──だから、簡単に付き合ったりしちゃいけないんですよね。
「ごめん!(笑)」
インタビュー/加藤 美樹
プロフィール3月26日生まれ B型。
東京都出身。
10代の頃からモデルの仕事を始め、大学在学中にファッション誌の専属モデル(小学館CanCam)を中心に活動。
その後ラジオの仕事を始め、94年FM802DJオーディションに合格。
以降、ラジオパーソナリティを中心に日本の音楽シーンを、アーティストや作品だけではなく、プロデューサーやプレイヤーにも注目し、その独自の視点と感覚でリスナーに音楽のすばらしさを伝えている。
レギュラー番組:FM802SUPER J-HITS RADIO(日曜夜7時〜10時)